「ん・・・」
いま、何時かしら?
ベットサイドのテーブルに置いてある眼鏡をかけて、時計を見ようとして、でも
いつもと同じ場所に時計がありません。
それどころかいつもと違うお部屋です。
「・・・くす、そうでした。」
そう、今わたくしは兄上様と海辺の別荘に来ているのです。
夢にまで見たあの風景が広がる、この別荘に兄上様と二人っきり。
今日も楽しい1日になりそうです
シスタープリンセス・ショートショートストーリー
夏の想い出 〜2日目〜
ベットから降りて、パジャマの上からカーディガンを羽織ります。
夏とは言え朝晩の冷え込みは身体に悪いですから、注意しないといけません。
顔を洗おうと部屋備え付けの洗面所に行くと、そこには昨日の水着が干してありました。
紺色の学校指定のワンピースの水着。
・・・
・・・顔が赤くなっていくのがわかりました。
わたくしったら、昨日勘違いをしてしまって、兄上様に気づかれなかったかしら?
勘違いだけならまだ良いのですけど、あんなはしたない格好まで・・・
その時ドアをノックする音と兄上様のお声がしました。
「おはよう、鞠絵。起きてるかい?」
「は、はい!!」
「?」
「い、いえ、おはようございます、兄上様」
扉を開けて兄上様に朝のご挨拶です。
「おはよう、鞠絵。良く眠れたかい?」
「はい、おかげさまで」
「・・・鞠絵、熱あるんじゃないか?」
「え? だ、だいじょうぶです。」
「鞠絵、ちょっとごめんな」
「あっ・・・」
兄上様の暖かい手が私の額に添えられました。
もう片方の手は兄上様の額に当てられてます。
「・・・だいじょうぶだな、平熱だ。」
そういって兄上様の暖かい手はわたくしから離れていきます。
「顔が赤く感じたのは僕の気のせいだな、勘違いでごめんね」
「い、いえ、ありがとうございます。」
「それじゃ朝ご飯にしようか」
「は、はい。あの・・・準備したらすぐにお伺いしますね」
「うん、待ってるからね」
そういって兄上様はお部屋から出ていきました。
わたくしの心臓はまだドキドキしてます。
「兄上様の手、暖かかったな・・・」
・・・
あ、いけませんわ。兄上様がまってらっしゃるのですから早く支度しないと。
トーストに野菜のサラダとポタージュスープ。
兄上様がわたくしより先におきて準備してくださいました。
本当はわたくしが準備するべきなのでしょうけど、兄上様は
「僕の手作りを鞠絵にご馳走したかったんだ」
とおっしゃってくださいました。
「とはいえ、料理らしい料理じゃないんだけどね」と照れ笑いしながら付け加えてました。
食事の席で昨日お話にでた、沖合の島にボートで行く事になりました。
わたくしがこの別荘に来て荷物を置いたとき、部屋から見えた沖合の小島。
みるだけしか出来ないあの小島に行ってみたいというわたくしの希望を兄上様が叶えてくれました。
「僕は鞠絵の手伝いしかしてないよ」
「鞠絵、羨ましむだけじゃだめなんだよ? 望むことも大事なんだよ」
「鞠絵は・・・どうしたい?」
昨日兄上様に言われた言葉を思い出しました。
だからわたくし、小島に行ってみたいと兄上様におねがいしました。
今のわたくしなら、兄上様とならどこへでも行けそうです。
「ちょっと・・・揺れますね」
わたくしは今海の上の人になってます。
少し風が強いのか小舟が揺れています。
「もう少しだから我慢してね」
「これくらい大丈夫ですよ、兄上様」
兄上様は汗をかきながら一生懸命船をこいでくれています。
「だからゆっくりでいいですよ?」
兄上様のがんばりのおかげか、思ったより早く小島に着くことができました。
砂浜に小舟が乗り上げたあと兄上様はそのまま後ろに倒れ込みました。
「だいじょうぶですか?」
「は、ははは・・・ちょっとだけ休みたいんだけど、いい?」
「はい、では木陰に行って休みませんか?」
わたくしはこかげに兄上様をお誘いして、樹の袂で座りました。
「兄上様、どうぞ」
「え?」
「膝枕です・・・わたくしの夢だったんです。兄上様に膝枕して差し上げるの。
・・・駄目ですか?」
「あ、えっと・・・じゃぁ、借りていいかい?」
兄上様ったらお顔を真っ赤にして・・・
いつも頼りがいある兄上様ですけど、可愛い兄上様も・・・素敵です。
「ちょっと・・・怖い気がします」
森に入ってからわたくしはそう思いました。
いつもの高原の森林とはちがって、密林、と言うのがぴったしな雰囲気です。
「ちょっと薄暗いからね、でも大丈夫だよ。」
「頼りにしてますね」
森の中を兄上様と一緒に散歩しはじめてすぐ、小屋を見つけました。
「兄上様、誰かいらっしゃいました?」
「誰もいなかったよ、漁の道具があったから漁師小屋だとおもうよ」
ということは、ここは無人島・・・? 兄上様と二人っきり?
「あれ? 鞠絵ちゃん、どうしたの?」
「え? いえ、なんでもないです」
「そう? じゃぁもうちょっと冒険してみよう」
・・・兄上様の鈍感。
「わぁ・・・すごいです」
「そうだね・・・こんな所あるなんて思わなかったよ」
小高い丘の上に、一面の花畑がありました。色とりどりのお花がいっぱい
咲いていて、海からの風も心地よくて・・・
わたくしと兄上様だけの楽園・・・そう、思っても良いですよ、ね?
「綺麗だな・・・」
「はい、とっても綺麗なお花ですね」
「いや・・・確かに綺麗な花だけど・・・」
「兄上様?」
兄上様、どうしたのかしら? わたくし、何かおかしいことしたのかしら?
「兄上様・・・」
急に雨が降ってきました。もちろん傘も合羽も用意してません。
「鞠絵ちゃん、帰ろう。このまま雨が酷くなって嵐にでもなれば小舟が流されて
帰れなくなっちゃう、今の内に別荘に戻ろう!」
海岸に着く頃には風もかなり出てきて、海は荒れてきてました。
「兄上・・・様・・・」
「ごめんね、鞠絵ちゃん。僕が小島にさそったばっかりに」
「そんなことはありません!」
わたくしだって行きたかったのですもの、もし兄上様が悪いと言われるなら
わたくしもわるいんです。
そう伝えると兄上様はいつもの優しい笑顔で、「ありがとう」って。
「さぁ、今ならまだ大丈夫だから帰ろう」
「・・・」
わたくしの目の前に荒れる海が見えます。さっきより酷くなった気もします。
こんな海にわたくしが・・・兄上様がいてくださっても・・・怖いです。
「鞠絵・・・一緒に行こう。これからもずっと、どこまでも。鞠絵は僕が
守る、だから鞠絵も勇気を出すんだ、鞠絵!」
「兄上・・・様・・・」
兄上様・・・わたくし、今の言葉を信じていいんですね?
「さぁ、一緒に行こう!!」
「はい!」
兄上様に励まされて小舟に乗ったのですけど、思ってた以上に揺れが激しいです。
「鞠絵ちゃん、縁にしっかりつかまっててね、すぐだからね」
「は・・・はい」
兄上様に言われたように小舟の縁に一生懸命つかまりました。
でも・・・
だんだん頭がぼーっとしてきました。それに船の揺れがどんどん気持ち悪くなってきています。
いつものあの嫌な感覚が襲ってきます・・・
「鞠絵ちゃん? ・・・鞠絵!! ・・・」
兄上様・・・わたくし・・・
その時下から突き上げられる衝撃で身体がふわっと浮いた感じがして・・・
わたくしは暗闇の中に落ちていきました・・・
・・・
・・・わたくしはどうなったのでしょう?
・・・
・・・何もみえないです
・・・
・・・真っ暗な闇の中
・・・
・・・あぁ、いつもと同じ覚めない夢なのですね
・・・
・・・いえ、これが夢
・・・
・・・そう、この闇が夢で
・・・
・・・朝、目が覚めたらいつもの療養所で
・・・
・・・身体がとても熱いです
・・・
・・・とっても熱いのに・・・寒いです。
・・・
・・・
嫌っ!
こんなの嫌!!
こんな夢なんて見たくない!!
兄上様!! 助けてください!! 兄上様!!
あ・・・
暖かい・・・
このぬくもりは・・・わたくしが追い求め恋いこがれた物・・・
そう、今朝わたくしの額にふれたぬくもり・・・
兄上様なのですね・・・
わたくしは兄上様にまもられてるのですね・・・
気がつくとそこは闇の中ではなく、療養所でもなく、別荘のベットの上でした。
「わたくし・・・え?」
え、えぇ?
わたくしのベットの中に兄上様が一緒に・・・眠ってらっしゃる?
「鞠絵?」
「兄上様?」
「大丈夫かい? 鞠絵ちゃん」
「はい・・・その・・・ありがとうございます。」
「・・・よかった」
兄上様のほっとされる顔が目の前にあります。
「あの・・・兄上様?」
「・・・あ、ゴメン!!」
そういって兄上様はすぐにベットから出て行かれました。
わたくしもベットの上で起きあがり、眼鏡をかけて兄上様を見ました。
「ゴメン、鞠絵ちゃん、その・・・何も見てない、してないから!!」
あわてふためく兄上様をみてなんだかおかしくなっちゃいました。
兄上様のお話だと、わたくしボートの上でめまいを起こして気を失ってしまったそうです。
その時強い波のうねりにのまれて海に落ちてしまったそうです。
海におちたわたくしを兄上様が救い出してくださって、なんとか別荘にたどりついて
わたくしをベットまで運んでくださいました。
うなされるわたくしを落ち着けるために、一晩中兄上様はわたくしのそばに、わたくしを
抱いてくださったそうです。そしてそのまま兄上様も疲れて眠ってしまったそうです。
「それじゃ僕は朝食の準備と、お風呂を沸かしてくるよ。」
そういってわたくしのいる部屋から出ていきました。
兄上様の話を聞いて、ふと疑問が浮かんできました。
わたくし、昨日ボートにのったときは普段着をきていたはず。
でも今はパジャマを着ています。
気づくと、わたくしの肌が受ける感触がいつもと・・・違います。
・・・
確認するまでもないです、今のわたくしはパジャマしか着ていません。
わたくしったらこんなはしたない格好で兄上様と寝てたなんて・・・
兄上様に会わせる顔がありません。
シャワーを浴びてちゃんと下着をつけてから着替えて、食事の席で聞きたくはないのですけど
やっぱり聞きました。
「あの・・・兄上様。わたくしの格好ですけど・・・」
「ごめん、濡れたままだと身体に悪いから・・・脱がせた。」
その言葉を聞いてわたくし、顔を真っ赤にしながら兄上様の言い訳を聞きました。
濡れたままだと熱を奪うのでとりあえず脱がせたそうです。
その・・・下着は目をつむって脱がせて、そのままパジャマを着せたそうです。
目をつむったままだと下着は着せられないし、どこにあるかもわからなかったそうなので
下着はつけれなかったそうです。
ベットでうなされてたわたくしを落ち着けるために抱きかかえてくださったそうです。
なんで抱きかかえたかというと、その・・・わたくしが暑がってパジャマをはだけさせて
しまったそうなんです。それをさせない為だそうです・・・
「神に誓って僕は何もしてないから」
兄上様もわたくしも顔を真っ赤にしながら説明は終わりました。
本当は今日帰る予定だったのですけど、わたくしの身体の事も考えて、別荘でもう一泊
していくことになりました。
療養のため出かけることはできなかったですけど、兄上様と一緒にすごす静かな時間
とても素敵な時間でした。
その日の夜も兄上様はわたくしが眠る時までずっと手をにぎってくださいました。
兄上様、あの小島でおっしゃってくださった事、信じて、いいんですよね?
わたくし、兄上様と一緒に・・・この先ずっと歩いていきます。
だから兄上様・・・わたくしの事をまもってくださいね。
・・・でも。
あの夜何も無かったっておっしゃったとき・・・
兄上様となら何かがあってもよかったのにって思っちゃいました。
あ、でも、あの夜は駄目です。
兄上様と一緒の夜は忘れたくない夜ですもの、わたくしがちゃんとしてるときじゃないと。
いつかは兄上様と一緒に・・・きゃっ。わたくしったら何を考えているのでしょう?
おやすみなさい、兄上様。夢の中でもまもってくださいね。
---
あとがき
まさきちさんの鞠絵のスク水イラストに触発されて書いた作品の続編です。
続編っていうか、前の作品とこれをあわせて一つの作品かな。
ストーリーは考えてあったのですけど、まさきちさんの次の作品の鞠絵のCGにあわせて
少し書き換えてこうなりました。ちょっと無理ありましたけどね(^^;
この作品はかくきっかけになったCGの作者、まさきちさんにちょっと早い残暑見舞いとして贈ります。
2003.08.07 早坂 充
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